居酒屋「嵐坊 月」|料理メニュー写真

宮崎地鶏もも肉

フード(風土)メニューの出張撮影

日本酒の名産地として有名な新潟県まで、料理メニュー写真の出張撮影をした。

今回のクライアントは宮崎地鶏の店である。旅の道中、何故、新潟県で宮崎鷄なんだろうとその所縁を考えていた。料理に酒は欠かせないし、九州産といえば焼酎のイメージが強かったからだ。とはいえ、宮崎県の地鶏と新潟県の日本酒を同時に味わうことが出来るのだから、それは贅沢と言っていい。こんなことを言っているとカメラマンというよりもグルメリポーターになってしまうなと思いつつ、勝手に膨らませた想像を楽しみながら現地へと向かった。
 
こちらの居酒屋のメインメニューである「宮崎地鶏の炭火焼」は、小さく切った地鶏を高火力の炭火で一気に焼き上げる宮崎県の郷土料理で、見た目がとにかく黒い。もう一度言うが、黒い。
 
カメラマンの仕事は、写真というビジュアルで「美味しい」を伝えること。カメラマンにとっては非常に厄介なビジュアルである。
 

宮崎鶏皮焼き


 
この黒さは鶏肉が焦げているわけではない。強力な炭火の上に鶏の脂が落ち、大きな炎と共に立ち上る煙にまかれて、網の上の鶏肉が炭で燻されて黒くなっているのだ。炭に鶏油を足して立ち上る火柱と煙の中で豪快に肉を焼く店主の姿は、まるでBBQをしている海賊のようだ。まさに、これこそフード(風土)(笑)
 
部位は、ももとせせりと皮。鶏肉の味付けは、塩とコショウだけでシンプルだ。特に地鶏のももは肉質がしっかりしていて歯ごたえがあり、噛めば噛むほど味が出る。脂も程よくのっていて旨味が強い。炭の香りに包まれたもも焼きは絶品である。
 
そして、これが日本酒にぴったり合う。焼酎より日本酒が方がずっと良い。
 


 
焼酎について調べてみると、気候が温暖な九州では明治以降、腐敗に強い黒麹を用いた酒造りが盛んに行われ、その酸味を含んだ酒は蒸留され焼酎となり拡がっていったと言われている。
 
さらに調べてみると、日本の酒は、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)という美しい神が自らの貞節を夫に証明するために火の中で我が子を出産した際、その無事を祝って天甜酒(あまのたむさけ)と呼ばれる甘酒の原形になったものを作ったのが始まりとされているらしい。そしてこの木花咲耶姫は宮崎県西都市の都萬神社に祀られており、それにちなんで(諸説あるだろうが)宮崎は日本酒発祥の地と言われる事もあるそうだ。
 
日本列島は南北に長く、山の多い地形から気候差に富み、特色のある風土が多い。先人達はその個性ある風土の中で生き抜く為、または得られた限りある土地の食物のおいしさを味わう為に知恵や苦心によって、その土地ならではの料理を生み育んできたのだろう。
 
宮崎や新潟だけでなく、日本各地の料理や酒はそのようにして今の姿があるのだと思う。
 


 こちらの店主・田中秀一さんは、宮崎県で有名な「地鶏炭火焼・嵐坊」で修行した後、東京を経由して、生まれ故郷の新潟でこの店をオープンしたそうだ。良質で豊かな水に恵まれ米のうまみを生かした新潟県の日本酒は、炭の香りに包んだ宮崎地鶏の深い旨味と相性が良いと確信していたと言う。
 
現代の我々には、保存技術や荷役運搬技術の発達において気候による食料保存の問題や運搬における距離の問題をほぼクリアしていると言える。その為、人はフード(風土)を誰かと分かち合うことが出来るし、様々な郷土料理を楽しむ事ができる様になった。
 
風土は、文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境を表している。遠く離れた土地の「美味しい」という気持ちを一人でも多くの誰かに知ってもらい、そしてシェアしたいというごく純粋な思いもあるだろう。
 
きっと人には、屈託なく素直な気持ちで人と向き合えるための起爆装置があるのだ。そして料理は起爆剤なのかも知れない。
 
そういう風に独り合点をしながら、自分もよりオープンマインドな気持ちで撮影に挑もうと東京行きの帰りの新幹線の中で考えた。
 
そして、カメラマンの仕事はつくづく「美味しい」なと感じたのである(笑)
 

photographer 高野勝洋

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