カンニング竹山|広告撮影
不条理な怒りを笑いに転換するスキル
東京都港区のベリーベスト法律事務所の「過払い金の請求」広告で、今回、カンニング竹山さんの写真撮影を担当した。
竹山さんは、まだ売れてない頃、究極の借金まみれの生活をしてたそうだ。そんなエピソードが元で、弁護士を通じて払い過ぎた利息を取り戻そうというコマーシャルにカンニング竹山さんがモデルとして起用されたのだろう。
撮影前、竹山さんは、ご自身のキャラクターの軸となったキレ芸は借金の返済の催促を債務者から追い詰められた末に沸いた感情がキッカケだったと楽しそうに話していた。
竹山さんはテレビでは妙に怖そうな芸人に見えるが、実際会ってみると非常に真面目な印象を受けたし、普通にめっちゃいい人だし、役者なんだなと感じた。
そもそも、何でキレ芸がブレイクしたのだろうか。
現代の社会においてコミュニケーションスキルを持つ人間は高く評価され、その処世術は重宝される。
よってコミュニケーションを最優先にするなら、感情は表出するものではなく、共有する事が効果的だとも言われている。共有ありきの感情ってそれはもはや感情とは言わないんじゃないかと何だか狐につままれたような気分になるが、社会人の日常において怒りや哀しみを露わにする事はマイナス傾向にあるようだ。
そんなつまらない現代社会において、不条理に対する感情の爆発(怒り)はたとえ当事であったとしても(または他人事であったとしても)そこから一歩離れた視点で眺めてみると確かに面白いかもしれない。感情を表現する術を忘れてしまった者達において、竹山さんのそれは刺激的に映るだろう。
とはいえ、カンニング竹山さんのキレ芸は、怒りの対象を特定していないので不条理に対する怒りというよりも、自分の失敗に対する怒りなんだと思う。
借金は失敗だった。とはいえ、失敗を悔やんでいても前には進めない。そもそも失敗とはチャレンジした証拠だ。常にチャレンジする人にとって、自分の失敗を笑いに転換するスキルは重要な装備だろう。
他人の失敗談は落ち込んだトーンで聞かされるとうんざりするが、笑いに変えてくれるであろう自虐ネタならツッコミやすいし、そんな「怒り」の様相が面白かったりする。
「俺が借金したんだ!バカヤロー!」と叫んで、最後は自虐ネタで落とす。
それがカンニング竹山さんのキレ芸なんだろう。
竹山さんは情報番組のコメンテーターとしての仕事も卒がない。
メディアからの発言、発信に対して視聴者からの応戦が凄まじいインターネットの普及時代において、竹山さんへの炎上や中傷は相当なものだろうが「番組に求められた事をやるのがタレントだから」とぼやきの姿勢でオープンマインドを披露しつつ(これはもちろん芸人カンニング竹山としてのネタの一つだろう)プロ意識と責任を持って燻る表情を演じる。
そのような竹山さんの姿は、ブレイクに繋がらなかった若手時代の苦労や志半ばにして亡くなられた相方、中島忠幸さんへの思いなど酸いも甘いも噛み分けてこられた人間としての土台が仕事の姿勢に垣間見えて興味深い。
多くの失敗を重ねた人間本来の面白さと社会で求められる大人としての責任や立ち位置を入り混ぜてカンニング竹山さんは芸人として笑いを表現する。
そんな彼の笑いはとても味わい深いと感じる。