クライアントとカメラマンの関係
広告写真というフィールドで、企業や会社の雰囲気を働く人達の人柄で伝える事が出来たとき、僕はカメラマン冥利に尽きるなぁと感じる。
もちろんそのアピール方法は、働く人を映すだけに限らない。飲食店での料理メニュー写真やホテル、旅館の風景から投影される事もある。それらは結局見せ方の手法の話であって、被写体に囚われる必要はない。ただ、僕はその様々な「見せ方」を辿って企業や店舗の魅力を余す事なく消費者に伝えるという思いを持ってカメラを構えている。
「伝える」ということは簡単なことではない。
「関係」がなければ伝えられない。「関係」は人との繋がりがあって初めて生じる。
店舗とユーザーであれば、サービスの利用や購買となって最終的に利益となる。長く続いているお店には必ず良い顧客(リピーター)がいるし、新規客を獲得するよりもリピーターを増やす方が経営的には上手くいく場合が多い。その収益はとても大きい存在だからだ。
そのような関係性においては、写真を撮るカメラマンとクライアント企業も同じではないだろうか。
今回、出張撮影をした(株)Action(東京都港区)は、インターネット広告代理事業をベースにしたマーケティング戦略のプロ集団である。最近では、マイクロソフトやGoogleなどの有力な外資クライアントのマーケティング戦略にも携わっており、事業規模は小さいが『行動力』や『展開力』はサイバーエージェントなどの大手広告代理店にも引けをとらないと言われている。
そんな広告のプロフェッショナル企業の会社案内用に、社員プロフィールの写真撮影の依頼を受けたのである。
もう一度言わせてもらうが、広告写真というフィールドで、企業や会社の雰囲気を働く人達の人柄で伝える事が出来たとき、僕はカメラマン冥利に尽きるなぁと感じる(笑)。
そもそも「広告制作の為に写真を撮って欲しい」という依頼にベストな形で対応するには、コンセプトやブランディングのヒアリングは不可欠で、広告写真のクオリティーを上げるにはビジネスパートナーというお互いの認識と関係性がないと成り立たない。
尤もその関係を時間で計ると僅かな関わりだろう。依頼者には広告作りや写真撮影はあくまでも経営の為の広報業務であり、営みの一つでしかなく、関係で表せば接点という程度かも知れない。
だが写真撮影の依頼者であるクライアントは皆その企業、会社の看板を背負って生きている。それは生活の糧でありアイデンティティの一部として存在している。カメラマンはそこに入り込んで行くのだから、その事を頭に入れず関わる時間だけで関係の重さを決めてしまうのは余りにも無思慮と言えるだろう。
撮影終了後に興味本位ではあるが「Action (アクション)」という社名について尋ねた。
「ある有名映画監督の追悼番組の中で、撮影の合間には出演俳優と和気藹々明るく親しく会話する姿が映っていましたが、いざ「アクション!」の掛け声がかかると、真剣勝負の鬼に一変する監督の姿を見た」と代表取締役社長の手塚拓海さんは答えてくれた。
「代表と従業員の関係もこうでありたい。ビジネスの場ではボスと部下。でも一度ビジネスの場を離れれば親しい仲間でいたい。」と考え、その合言葉「アクション」という言葉を社名にしたという。
カメラマンはただシャッターを押すだけの簡単な仕事だが、ビジネスパートナーというお互いの認識と関係性によって、目指す広告の完成度(ビジョン)や取組む姿勢(アクション)など、今回、多くの事を学ぶことができた。
(株)Actionは僕にとって良き顧客(リピーター)だが、その収益はとても大きい存在だし、カメラマンはそういう仕事の熱量から関係の濃密さを築いていくしかない。
そして、そのような経験がカメラマンにとって大きな武器になるのである。