古物百貨店 All Tomorrow's Parties
「捨てる神あれば拾う神あり」
東京・町田に全国のアンティーク家具やジャンク品などのガラクタが集まる場所がある。
「古物百貨店 All tomorrow's parties」
店頭に並んだマニアックな民芸玩具。ヴィンテージソファに座る金色の豚。ガラス越しに顔を覗かせるアフリカのマスクオブジェ。それは、奇妙な世界の入り口(The DOORS)ように滑稽(clown)でありながら吸い込まれるような魅力を放ち、躊躇しながらも足を踏み入れざるおえない。
雑多に並ぶ骨董品やレトロポップ なテーブルライト。昭和レトロ風の箪笥や椅子。「最後の晩餐」の彫刻の上に並んだ愉快なコンドーム。まるで映画のワンシーンに入り込んでしまったかのような錯覚をおぼえる。絵画やヴィンテージレコード、古いカセットテープ、エロいフィギア、年代や国もジャンルも様々な商品が並んでいるが、不思議と統一感があり、空間全体がアート作品とも言える。
この場所は、買い物を目的としない人にも知的好奇心を満足させるし、また、子供のように宝探し気分で遊べるし、例えるなら大人の遊園地と言っていいだろう。
店主である冨岡栄二さんは、見た目はジプシー風ゴリラだが、どんなジャンルの話題でもなかなか粋なコメントをするインテリオジサンである。
ゴリラが着ているTシャツのプリントはバナナ(Andy Warhol)ではなくカスパーハウザー(ドイツの野生児)だが、フーテンの寅さん宜しく「今日もおてんとうさまは、見ているぜ!」となんでもかんでも自分に都合よく考える彼のスタイルは折衷主義とも言えるし、もし彼を見つけたら気軽に声をかけてみるといい。寂しがり屋の店主は、満面の笑みで対応してくれるはずだ。
そんな店主は、人によって見出される価値が全く異なる古物に魅了され、 風に吹かれながら全国を巡りガラクタを収集し続けた挙句、“百貨店”という屋号を付けて店舗を構えた。
モノの評価はヒトによってジャッジされるが、その基準は様々である。
そもそもモノを抱えるという事はとても手間の掛かることだ。モノが増えれば増えるだけ片付けや管理といった用件も増える訳だし、場所だって取られる。機動性との両立も大変だろう。だから、生活をアップデートする機会に古いモノは捨てられるのだ。一時期「断捨離」というライフスタイルがもてはやされたが、冨岡栄二さんが作り上げた百貨店はその対極にある。
店主の冨岡栄二さんは、某テレビ番組に鑑定士として出演され、オークションではヴィンテージ家具や古美術品を高額で落札している。要するに、店主はゴリラだが、百貨店は「バナナの叩き売り場」ではないのだ。
実際、この店からはモノのストレスが微塵も感じられない。
店舗へ足を踏み込めばカオスでありながらも店内はいつも穏やかで温かだ。ゴリラのモノを愛でる楽しさがそこに漂い、モノは音楽に合わせてステップを踏んでいるようだ。
使い古されてガラクタのレッテルを貼られたモノたちは、ゴリラに拾われてアートというドレスを纒う。
For all tomorrow's parties(明日のパーティーの為に)。
まさに「捨てる神あれば拾う神あり」だ。
ところで。
こちらの「拾うゴリラ」とは30年来の友人で、僕が写真家を志したキッカケになった男である。
10代の頃、僕はとても貧しく、建築業のアルバイトをしながら生計をたてていた。
貧しい少年の夢は映画を撮ることだった。週末になるとなけなしの現金を握りしめて渋谷の小さな映画館に足を運んでは、夜通し映画を観て日曜日の朝を迎えるという泡のような日々を送っていた。映画は貧しい少年に生きがいを与えてくれた。
そして、富岡栄二との出会いも映画だった。ミニシアターの前でシケモク(捨てられたタバコ)を拾おうと手を伸ばした先に、ゴリラの手があった。富岡栄二も僕と同じ、「日曜日のピエロ」だった。
ある日、僕が母親からもらったボロボロの一眼レフカメラを肩から提げていると、おもむろに彼は言った。「うちに来いよ。バイト先の社長からもらったボロボロの引き伸ばし機があるよ」。
引き伸ばし機とは、写真フィルムの画像を印画紙に焼き付ける(プリント)ための機械である。
90年代、写真は高額な費用がかかる創作であり、貧しい少年がハマる趣味ではなかったが、「ボロボロの引き伸ばし機」は僕を夢中にさせた。セーフライトで赤く染まった闇の中で、調合液からほんのりと漂うアンモニア臭に興奮し、現像液に浸ったバライタ紙から浮き上がる像に勃起した。僕の写真家人生はここから始まったのだ。
「ボロボロの引き伸ばし機」との出会いがなかったら、僕は写真家になっていなかった。
そんな感謝の気持ちがほんのちょっぴり残っていたので、今回、写真撮影の依頼を渋々受けた。ヒマだったから。
古物が人を呼び寄せるのか
この店の客層は、買い付け目的の業者が中心だそうで、ここ数年は、ファッション業界から古道具屋に転身する人の姿も目立つという。また、インテリアコーディネーターやデザイン事務所の関係者、開業用の家具を探しにくる飲食店や美容室のオーナーの来店も増えているそうだ。併せて、タレントや作家などの著名人も多く訪れており、ここの古物は映画にも使われている。
古物が人を呼び寄せるのか。
枝葉の様にきっかけが生まれ、店主の冨岡栄二はアンティーク家具や古い建物の廃材を利用した什器の制作、古物の味わいを取り入れた店舗制作や空間プロデュース、YouTube動画のアートデレクターなど才能を発揮するフィールドを広げている。
そういえば、60年代にニューヨークのアート界で活躍したAndy Warholのファクトリーには毎晩のようにパーティーが繰り広げられ、多く著名人が集まったと言われている。人を呼び寄せるのは古物ではなく人間力かもしれない。そういう意味では、こちらの店主は現代のAndy Warhol的な存在なのだろう。
ゴリラが着ているTシャツのプリントはバナナ(Andy Warhol)ではなくカスパーハウザー(荒野のオオカミ)だが(笑)
※カスパーハウザーはドイツの野生児だが、アウトサイダーの魂の苦しみを描いた作品としてヘッセの「荒野のオオカミ」の方が彼に相応しい。
腐れ縁ともいうべき富岡栄二のことを讃えるのは小っ恥ずかしいし、調子にノって能書を垂れる彼の顔を思い浮かべると妙に背中が痒くなってくるので、宣伝はこの辺で終わりにしようと思う。
とはいえ、この不思議の国のアリスのような店舗のリアリティーの無さと店主の引き込んで来るような親しみのある笑顔のあべこべ感はこのお店の面白さを表しているし、何度でも足を運びたくなるような魅力である。
今日もまた、古いモノたちは新たな出会いを求めて全国からやってくる。
To all tomorrow's Parties.
そして、今日もまた、日曜日のピエロが出会いを求めてこの場所に足を踏み入れる。
古物百貨店 ALL TOMORROW'S PARTIES
【所在地】東京都町田市金森東1-3-19
【アクセス】JR「町田駅」より徒歩10分
【電話番号】042-865-1380
【営業時間】13:00-19:00
【定休日】月曜 火曜
【駐車場】あり
【webサイト】古物百貨店 ALL TOMORROW'S PARTIESのホームページ